- 2024-05-07
- 障害福祉サービス施設
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「障害者福祉の父」が残した滋賀県の障害福祉活動
こんにちは、かわきせ日記帳の木村です。前職がライターだったもので、過去にもいろんな分野でお仕事をさせていただき、そのたびにいろいろなことを学んだり調べたりしてきました。でも、世の中で自分が知っていることなんて、本当にほんの少しですね。知らないことってまだまだたくさんあるものです。
■50年以上の歴史を持つ「近江学園」
少し前になりますが、2024年3月20日(水)のNHK NEWS WEBで「滋賀 障害児入所施設『近江学園』新園舎完成で内覧会」という記事を見ました。
「近江学園」は、湖南市が運営する知的障害を持つ子どもたちと職員が共同で暮らし、活動する生活施設です。現在は6歳から18歳までの約50人が、施設で木工作業を行ったり、養護学校に通ったりしています。開設は1946(昭21)年。障害者の福祉制度の充実に努め「障害者福祉の父」と呼ばれた糸賀一雄が今の草津市南郷町に建設し、1948(昭23)年には児童福祉法の施行に伴って県立の施設となりました。今の石部町(現湖南市)に移転したのは1971年(昭46)です。すでに50年以上が経ち、施設が老朽化したために新たな園舎が建設されたのです。基本方針は「障害のある子どもの地域生活の実現」にあり、「一人ひとりの確かな成長を支える施設」、「地域での育ちを支える施設」となるよう設計されたといいます。施設は5つの建物でつくられ、中心の生活居住棟は鉄骨2階建で最大90人まで入所できます。また個人のプライバシーを確保して自立を促すため、すべての部屋が木目調で家庭的な雰囲気の個室になっています。共同生活は4月から開始とのことだったので、入所されている方々もそろそろお部屋になじまれた頃かもしれません。
■障害福祉や社会的弱者を守る仕組みをつくる草の根活動
わたしは今後、業務の一つとして障害福祉サービス施設申請を扱っていきたいと考えています。でも「障害者福祉の先駆けである糸賀一雄」も、「近江学園」の成立を知ったのも、実はこの記事が初めてでした。Uターンしてきたこともあり、県内の一般的な情報はもとより福祉施設等に関する知識もほとんどなかったのです。糸賀一雄さんはそもそものお生まれは鳥取県で、京都帝国大学卒業後の1940年(昭15)年に滋賀県庁に入所したことが滋賀と関わるきっかけだったようです。また、先日亡くなられた陶芸作家の神山清子さんが、ご長男の白血病発症をきっかけに個人で始められた骨髄バンクの活動は、現在では公益財団法人日本骨髄バンクとして、血液の疾患を持つ人々には欠かせない存在となっています。この県には、社会的な弱者や障害のある人、また環境なども含めて、自然にあるべきものが自然にすごせる、保てるための活動をしようという人々を集める何かがあるのかもしれません。
昨今であれば、近江八幡にある社会福祉法人やまなみ会が運営するやまなみ工房の所属作家による「アール・ブリュット(絵の勉強をしていない障害者による自然なままのアート)」が話題ですよね。今では海外でも展示が行われるほどの人気だそうです。以前は「知る人ぞ知る」存在でしたが、そんな作品が注目されだした理由には、滋賀県立近代美術館の方向性の変化もかなり大きいはずです。以前の西欧や日本の近現代美術と湖国の作家・日本画の2本柱から、アール・ブリュットを加えて強化する3本柱に変更されて以降、関連する企画展の数は圧倒的に増えています。厚生労働省の2022(令4)年の「障害保健福祉に関する令和4年度予算案の概要」では、「障害者芸術文化活動普及支援事業」と項目をあげて活動の促進をしてもいました。そんなこともあってか、彼らの作品は多くの人に鑑賞されるようになり、湖国の現代美術作家として広く知られるようになりました。
どちらかというと、こうした文化的な活動は近江八幡市からかつての甲賀市や石部町、信楽町などがある湖南市など、湖南地域と湖東地域の間で盛んなイメージが(わたしだけかもしれませんが)あります。糸賀一雄の精神や思いが込められた「近江学園」の存在や活動の系譜が残っていたり、古い街並みや自然をいかしたまちづくりを官民一体となって行おうとする近江八幡市の方向性や空気感がアートと一緒になり、市民にも認識されてきていたりするのでしょうかね。
■「世の中にはいろんな人がいる」が普通になるように
2024年は障害者基本法の改正が行われました。業務にされている先生方は書類の対応がものすごく大変だったとの噂も聞こえてきますが、障害を持つ人や彼らとともに過ごすスタッフにとっては、よりよい内容に変わってきているとのこと。そしてどうやら、政府が描く未来は「まちに障害者が溶け込み、周囲と協力しながら自立して暮らしていく姿」のようです。その意味でいえば、自らの個性や才能を活かして作品の対価を得られる手法が増えるのはすばらしいことです。ただ、障害を持つ人がみな芸術や音楽などの才能を持っているわけではありませんよね。それは、わたしたちいわゆる健常者に絵を描ける人とそうでない人がいるのと同じ話です。ですからアートだけにこだわることなく、障害を持つ人のさまざまな力や個性が発揮できるような仕組み作りに取り組む人や、バリエーション豊かな就労支援施設を立ち上げる人が増えるといいのにな、そんな施設を立ち上げるお手伝いができたらいいな、などと若輩者なりに考えたりしています。いつか「世の中にはいろんな人がいる。ただそれだけのことだ」とみんなが思える日がくるといいですね。