- 2024-06-14
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先輩に聞く障害福祉サービス運営#01–社会福祉法人若竹会 権田五雄さん(3)
前回までは社会福祉法人若竹会の理事長、権田五雄さんにお話を伺ってきました。(3)では少し趣向を変え、権田さんが運営する最も新しい施設「若竹福祉総合学院」の校内ツアーと、解説いただいた教務ご担当の寺元典子先生のミニインタビューをお届けします。
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社会福祉法人若竹会
若竹会は、滋賀県草津市を中心に「障害を持つ利用者が地域の中で潤いのある生活が送れるよう「働く」と「生活する」ことをめざし、作業所やグループホーム、ヘルパーサービスや就労継続支援B型施設などさまざまな施設を運営しています。また全国でも珍しい支援高等学校卒業後に自立訓練と就労・生活訓練を一貫して学べる「若竹福祉総合学院」を立ち上げるなど、新たな障害福祉施設の形にも意欲的に取り組んでいます。
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■「若竹福祉総合学院」の校内ツアーをさせてもらいました!
「若竹福祉総合学院」を、生活支援員で介護福祉士の寺元典子先生に案内していただきました。若竹福祉総合学院(以下、学院)は、2023年4月に草津市川原町で開校。学力の向上だけでなく、情緒の発達や社会性、生涯学習における基礎的な資質育成を目的とした「セサミストリートカリキュラム」を福祉団体として初めて導入し、「答えのない問題」に自分で考え、仲間達と取り組んでいく学習プログラムも行っています。
1階は、誰でも利用できるまちのライブラリーとカジュアルイタリアンカフェ「in the Knot インザノット」が併設され、奥には畳を敷けば空手などもできる鏡貼りの多目的ホール「わかたけホール」があります。身体を動かすことにも、いくつかの種類と学びがあるといいます。体育にあたる運動はもとより、障害のある人にとっては、自分が他の人からどのように見えているか、自分の表現が他の人にどのように伝わっているのかを意識する面も大切な学びになるんです、と寺元先生。鏡の前でいろんなポーズを取ることで、学生たちが表現力を高めていく場でもあります。
2階には、比叡山も見える大きなガラス窓が印象的かつ明るいフリースペースを囲むように、クラスルームとキッチンスタジオ、開放的な職員室、そして大スクリーンを完備した大教室が並んでいます。インテリアには木がふんだんに使われており、気持ちがホッとするような心地よい空間です。
ちょうどお昼時だったので、フリースペースに接する大教室では、みなさんが銘々にお昼を取られるところでした。スクリーンも完備された大教室は、本来イベントごとや学生全員が集まる行事ごとなどに利用する場所ですが、普段は食堂として開放しているといいます。一般的な施設で起こりがちな利用者同士、職員同士で集まる傾向を払拭する上では、いつの間にか人が集まってくるような広々とした場づくりも大切なのだとか。「利用者や職員の区別なく、みんなで話すことができています」。
また、開放的な職員室は、生徒や職員を問わず誰もがお互いに声をかけやすく、職員からは生徒の様子を自然に知ることができるようになっています。
隣に続くキッチンスタジオでは、1回生の皆さんが餃子づくりの真っ最中。取材中に伺った「餃子100個」の実習のようで、具材の準備も大変です。寺元先生曰く、最近は料理男子も増えているとのこと。確かに、外から見ていても、一心にキャベツを刻むみなさんの手つきはなかなかのものでした。
ちなみにキッチンはアイランド型になっており、ゆったりと楽しく料理ができる構造です。壁に作りつけられた棚には、コーヒーメーカーや料理道具がさまざまに並んでいます。授業を通じて、料理に興味を持ち始める学生も増えているのだとか。他施設の利用者さんが使うこともあり、ここで調理した定食やお弁当を系列の事業所に販売するなど、横のつながりをいかした活用もしているそうです。
クラスルームでは、学院とは別に、対人関係に課題を抱えている方やおもに外出が困難な方に対してリモート支援(在宅支援)を行う専門チームが活動されていました。寺元先生曰く、「週に1回、専門チームの職員に、ICTの授業を受け持ってもらっています。たくさんの人のいる場所にうまくなじめない学生の中には、一人で黙々とできるデジタル作業が向いている人もいらっしゃるんです。将来は、学院に通えない人でも、自宅にデジタル環境さえあれば、インターネットを介して授業や訓練ができる仕組みの導入もめざしていきたいと思っています」とのこと。場所を問わず学べる制度が準備されている、という解説にも感心しきり。デジタル技術の進歩は、障害を持つ人の学びや自立の方法にも圧倒的なバリエーションを増やしていることを感じさせてくれました。
■やり甲斐と楽しさに満ちた、腕が試される教務の仕事
さて、こちらをご案内いただいた寺元先生は、障害福祉の仕事に携わって7年。隣接する「Bakery&Cafeわかたけ」に勤務後、開校に合わせて学院に異動されてきました。開校時から一貫して生活支援訓練を中心に、4学年全員の教務を担当されています。業務内容の中でも驚いたのが、各学年での大まかなカリキュラム枠はあるものの、細かい学習内容は、先生たちが学生一人ひとりの性格や進行状況を見ながらオーダーメイド的に作成しているということでした。学習予定表が渡されるのは、なんといつも1週間前。学生たちはそこで初めて、次の週にどんな内容かを知るわけです。
「その予定表を渡した時に『何これ! 面白そう!』って大きな反応が起こると、私たちも嬉しいですし、楽しさややり甲斐を感じます。学生さんには、あれこれ教え込んだり指示をするのではなく、楽しんでやっていたらこれができた、いつの間にか大人になれていた、と感じてもらえるような支援の形をめざしています」
先ほどの、餃子を自分たちで皮からつくる体験もその一つ。世の中にはたくさんのおいしいものがあるけれど、自分たちでつくることで本物のおいしさを知ってもらい、買うこともつくることも自分で選べると知ってもらいたい。彼らの人生での選択肢を増やしてあげたいですから、と語ります。
「この仕事に関われていることが、とにかく楽しいんです。これだけすばらしい環境を与えてもらっているせいか、自分の中から楽しいアイデアがたくさん湧き上がってきます。あれをやろうかな、これはどうかな、って。それを提案している感じですね。ただし、表では一緒に思いっきり楽しみつつも、学生さんには生活訓練として身につけてもらうべき要素があるので、そこをきちんと満たせるような内容にはしてあります」
聞けば聞くほど、一筋縄ではいかない仕事です。ものすごく技術と工夫と経験が必要なのでは? と問うと、笑顔でこう返されてしまいました。
「だからこそ、やりがいがあるんです」
今はまだ学院内の土台固めで必死な段階ではあるけれど、数年したら、もう少し地域の人たちと関わりを持てる機会がつくってみたい、との目標も。いろんな方々と利用者さんが交流できるような場や企画づくりへと繋げられたらいいですね、と話しておられました。
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3回に渡ってお送りした「先輩に聞く障害福祉サービス運営#01」いかがでしたでしょうか。まずは湖南地域を中心に、障害福祉サービスの活動をされている方々に少しずつ取材にお伺いできればと考えています。どうぞご期待下さいね。